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薬物採集 現地編

2006年02月12日 02:08

薬物採集といえば、フィリピン・インドネシアにおけるシアン化合物使用によるものが有名なところである。この薬物採集、最近になって問題化したものではなく、ずっと以前から言われてきている。1980年代初頭には、ヨーロッパのアクアリウム誌に取り上げられ、警鐘を鳴らされていた。

さてフィリピン・インドネシアの魚が全てシアン化合物による採集魚かというと、そうではない。ここ数年は徐々にシアン使用も減って来ていて、かわりに数種類の別の薬品が使われている(薬品名は不明)。シアンではない薬品を、実際に使用しているところを見た人によると、茶色系の薬剤でちょっと強い匂いがしたそうである。それらを使った魚は一時的に仮死状態となるが、蘇生も早く、シアンよりもずっとマシなようだ。とはいえ、サンゴ礁に影響は少なからずあるだろう。意外に思うかもしれないが、薬物採集の他には巻き網やタモ網を用いたハンドコートものもある。群れるハギなどは巻き網に追い込んで、一網打尽にして採集されている。ハンドコートといえば、インド洋(紅海や東アフリカなど)ではハンドコート率が高い。インドニシキが太平洋産よりも飼いやすいのは、ひとえにハンドコート率が高いからである。

ところで、危険なシアン採集を止めさせることはできるのだろうか? 答えは「相当難しい」だ。いままで何人もの人(日本人も外人も)が、シアン使用は危険だと説明してきた。が、向こうの人は生活がかかっているので、なかなか聞き入れない。フィリピン・インドネシア両国にしても、観賞魚の輸出は立派な外貨獲得手段のひとつなので、なかなか規制できない面もある。実際、根の深い問題なのだ。

ちなみに、シアン採集以上に強烈な採集方法で採集される魚がいる。ゴールデンエンゼルがそれだ。この魚は非常にすばしこく、かつ臆病なため、採集はおろか水中写真すら撮影するのが難しい。ではどうやって採集するのか。ゴールデンエンゼルはサンゴ食性であるから、まずテリトリーになっているサンゴ群体を特定する。そのサンゴ群体の周りのサンゴをまず綺麗に破壊して、そこに巻き網を張る。最後に住処のサンゴを破壊して追い出して採集する。一匹のために、これほどの破壊が必要な魚は他に無い(2011年現在、このような採集が、いまだに行なわれているかどうかは不明である)。

シアン採集が以前より少なくなったとはいえ、いまだに使われていることには変わりはない。危険な採集方法で捕まえられた魚が、他の採集魚と一緒になって輸入されているわけだ。よくいろいろなサイトに、シアン採集の魚は短命で長生きしないと書かれている。確かにシアンを濃く浴びた魚は全く駄目だろう。しかしよく考えてみると、駄目な魚は漁師のイケスで既に絶命し、さらにシッパーのストック槽でも淘汰される。なので、案外程度の良い魚が輸出されていることになる。

最近は状態の悪い魚ばかり持ち込む漁師は、シッパーも取り扱わないそうだ。シッパーの水槽で死んでしまうようなものでは、損ばかりで利益にならないから当然である。ソメワケヤッコなどが昔に比べて状態良く入ってくるようになったのは、シッパー自身の改善によるところもあるわけだ。実際にシッパーのストック水槽を見てみると、想像よりも意外と魚の状態はマシな感じがする。ストックされた魚がまともに輸入されれば、案外大丈夫なのではないかと思える。しかし実際には、そうはならない。

何故そうならないのかは、後編(輸送・問屋編)で。
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コメント

  1. 雪風 | URL | -

    ちなみに、キャンディーバスレットは100パーセント薬物採集(シアンではない)。クイーンも採集者によっては薬物採集(やはりシアンではないが)だったり。薬物採集は、東南アジアだけの十八番ではないのだ。魚を採集するというのは、それだけ大変なワケ(薬物採集を推奨しているわけではない)。

  2. 松井 | URL | 1yA/9GsU

    >よくいろいろなサイトに、シアン採集の魚は短命で長生きしないと書かれている。

    原因不明で死なれたりすると、シアンのせいにしたくなりますね。
    しかし、何もかもシアンのせいにするのはどうかなと思う。
    (一部の神経質な魚の死亡原因によくされてる)
    ま、偉そうに語れるほど魚を買って(飼って)はないですが。
    ところで、シアン中毒の症状ってどんなのです?

  3. めぐめぐ | URL | ziwa4Zsw

    昔々ですが、国内でも薬物採取をする人がいる、なんて噂を聞いたことがありますが、どうなんでしょうね?

  4. 雪風 | URL | cKg/74mY

    ■松井はん
    >ところで、シアン中毒の症状ってどんなのです?

    実のところ、よくわからないです。死因がシアンだということは分からないですしね。硫酸銅を例にした薬物中毒症状だと、狂ったように泳ぐ、体色が変化、失明、呼吸困難などがあります。

    ■めぐ氏
    >国内でも薬物採取をする人がいる、なんて噂を聞いたことがありますが、どうなんでしょうね?

    昔、キッチンハイターをぶち撒いて採集してた人の話を聞きました。採集魚はすぐ死んだそうですが(当たり前)。他にも麻酔系薬品を用いた採集は、いまでもやっている人はいますよ。

  5. スーリン | URL | EBUSheBA

    >ところで、シアン中毒の症状ってどんなのです?

    ずいぶんむかしに調べた話ですが、「シアン投与では即死する事がほとんどだが、しばらく生き延びて死んだ場合は、解剖すると脂肪肝が認められた」とのことでした。
    10年くらい前、自分で飼っていたサカナで餌付いていたのに急死した個体を解剖してみると、確かに肝臓が脂肪変成しており、Shopでは(当時)その産地ではシアンを使っているようだ、とのことでした。
    ただ、「脂肪肝だからシアノを使っていたとは言えない」と思います。
    組織に酸欠を起こしたり、大量の活性酸素産生をひきおこす毒物は、その個体が急死しなかった場合たいてい肝臓に脂肪変成を起こしますから。
    サカナではないですが、ラットに四塩化炭素を致死量以下投与しても脂肪肝になります。
    ちなみにシアンはミトコンドリアを変成させ組織の酸素利用を阻害して毒性を発揮します。
    代謝傷害をもたらすほど肝機能が低下すると、蛋白の異化昂進がおきるので、サカナだと背肉が落ちるという症状を示すと思いますが、もちろん、背肉が落ちた魚がすべてシアンのせいではありません。
    あと、毒物でなくとも餌のやりすぎでも脂肪肝は起きます。(人でもサカナでも)
    この場合はもちろん太ってきますが、サカナでは過栄養で肝臓を初め内臓に脂肪が付くと生殖腺の萎縮が起きて繁殖力が下がるそうです。
    また、カロリーが適切でも蛋白、ビタミン、必須脂肪酸のバランスが悪くても脂肪肝になります。
    脂肪肝は非特異的な変化です。
    で、長々書きましたが、シアンを使ったとしても数ヶ月後にそれを証明する手だてはありません・・・すみません。

  6. 雪風 | URL | cKg/74mY

    スーリン、どもです。

    やっぱりシアンが原因かどうかは、正確には分からないですよねぇ・・・。そうなんじゃないか、と思うような症状はあったりするんですが。うむむ。

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