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ホンソメワケベラ

2010年12月01日 11:10

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東アフリカ産。(photo/J.E.Randall)

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マーシャル産。(photo/J.E.Randall)

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パプアニューギニア産。(photo/J.E.Randall)

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タヒチ産。黄色い斑紋が特徴。(photo/J.E.Randall)

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スーダン産。(photo/J.E.Randall)


学名:Labroides dimidiatus (Valenciennes, 1839)
和名:ホンソメワケベラ
英名:ブルーストリーク・クリーナーラス Bluestreak cleaner wrasse
全長12cm
インド洋~中部太平洋に分布

 魚の体表に付いた寄生虫を食べる習性で広く知られる種。この習性のため、肉食性の大型魚にも食べられることはないとされる。しかし偶発的な事故などで、誤って食べられてしまうことが稀にある。分布域は広いが、地域による色彩変異はほとんど見られない。唯一、フィジー周辺に生息するもののみ、体側後方に黄色い斑紋を持つ変異がある。ただしフィジー産のものが全て黄色い斑紋を持つわけではなく、黄色くないノーマルなタイプも混在する。日本では千葉県以南に、夏から秋にかけて磯で幼魚がみられる。幼魚期は体色が黒く、細いコバルトブルーのラインが入る。
 本属のベラは一夫多妻のハーレムを持ち、オスの縄張りは広く、他のオスと出会うと激しく争う。このハーレムを率いるオスがいなくなると、そのハーレム内で順位が最も上のメスがオスへと性転換する。性転換は、およそ2週間ほどで完了するとされる。また大型のメスと小型のオスとを組み合わせると、大型個体はオスへ、小型個体はメスへと性転換することが確認されている。夜になると岩陰やサンゴの隙間に入り、口から粘液を分泌して寝袋をつくり、その中で眠る。

 古くから観賞魚として知られ、非常にポピュラーな種である。東南アジアから輸入される個体には状態を崩しているものもいたりするので、入手の際は状態の見極めが重要になる。フラフラと泳いでいるもの、痩せているもの、腹部が凹んでいるものなどは要注意。何も問題がなくとも、餌付けに難がある個体もみられるので、安全策を取るなら餌付いたものを入手するといいだろう。なおこの記事を書いた時点では、インド洋産やフィジー産は状態が比較的安定しており、餌付きも良い。最も良いのは自家採集することで、ちゃんと持ち帰れば状態、餌付きの良さなどは抜群である。
 クリーナーとして混泳水槽のタンクメイトとして選ばれることが多く、実際に良きタンクメイトになる。しかし個体の性格や混泳スタイルによっては、クリーニング行為が過剰になる場合があり、同居魚がストレスを受けることも稀にある。このような場合は混泳を解消した方がよい。また、ホンソメワケベラが分布していない海域の肉食魚、たとえばカリブ海のハムレットなどには捕食されてしまうことがあるので注意。サンゴ水槽で飼育するのも良いが、何故かクリーナーラスはシャコガイの外套膜を突くことが多い。このため、シャコガイを収容したサンゴ水槽での飼育は避けた方が無難である。
 クリーナーラスは、水槽内ではペア以外の同種同士は激しく争う傾向がある(ショップでも1匹ずつ収容されていることが多いのはこのため)。飼育の際は、1水槽に1匹が基本となる。病気にはかかりにくいが、飛び出し事故は多い。病死するより干物になる確率の方が遥かに高いので、フタはしっかり閉めておきたい。

種小名は『二分された、半分の』といった意味で、模様に由来している。英名も色彩に由来。和名は本来、ソメワケべラ Labroides bicolor に対し、体が細いのでホソソメワケベラと名付けられた。それが『ホソ』が『ホン』と誤って呼ばれ(あるいは誤植)、定着してしまった。誤った和名が正式和名として定着した珍しい例である。


ディヴァイディッド・ラス

2010年07月30日 11:20

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(photo/J.E.Randall)
オス成魚。

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(photo/J.E.Randall)
メス個体。

学名:Macropharyngodon bipartitus Smith, 1957.
和名:なし
英名:ディヴァイディッド・ラス Divided wrasse
全長:13cm
西部インド洋に分布

紅海や東アフリカ沿岸の西部インド洋で、普通に見られる種。メスは赤っぽい体色で、腹部が黒くなっていて目立つ。また全体にブルースポットが点在する。オスはメスとは異なり、全体がグリーン系の色彩に包まれ、頭部から腹部にかけてライン模様が入る。オスは単独で行動するが、メスや幼魚は小群を作って行動する。底性小動物を食べ、夜間は砂に潜って眠る。

観賞用としては、ケニア便で入荷する。主にメス個体が多く、オス個体の入荷は少ない。もちろん餌付きはメス個体の方がよく、オス個体は難しい。もっとも、メス個体も他のベラに比べると餌付きがよいとは言えない。砂が無いと落ちつかないので、細かい砂を敷くのは必須。他はノドグロベラの項を参照。

種小名は「2つに分かれた」といったような意味。調べた限り、メスの色彩を表しているのか、オスとメスで色彩が違うことを示しているのか、それ以外のことなのかは不明。英名の divided も「分割された」という意味で、種小名と同じ意味である。おそらくメスの色彩から付けられたものではないだろうか。英名にはもうひとつ、バーミキュレイト・ラス Vermiculate wrasse というのもある。Vermiculate は「虫食い模様」の意で、こちらはオスの模様に由来していると思われる。

ノドグロベラ

2010年07月02日 17:04

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(photo/J.E.Randall)
オス個体。

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(photo/J.E.Randall)
メス個体。

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(photo/J.E.Randall)
目状斑のある幼魚。

学名:Macropharyngodon meleagris (Valenciennes, 1839)
和名:ノドグロベラ
英名:ブラックスポッテッドラス Blackspotted wrasse
全長:15cm
西部太平洋に分布

西部太平洋の熱帯域で普通に見られる種。幼魚は背ビレ、尻ビレ後方に目状斑を持つ。成長するにしたがい、メス特有の碁石模様がはっきりとしてくる。オスになるとグリーンの強い体色になり、メスとは異なる色模様となる。背の立つような浅場から、30mほどの深さまで生息するが、浅い水深の方が多くみられる。主に甲殻類やゴカイなどの底性小動物を食べる。夜間は砂に潜って眠る。

観賞魚としてポピュラーな種で、ベラミックスで入荷することが多い。ベラ類は丈夫で飼育しやすい種が多いが、ノドグロベラ類は飼い難い部類に入る。やや神経質なため、落ち着ける環境でないと、砂に潜ったまま出てこないなどということも珍しくない。餌付きは良いとはいえず、最初は活き餌や生餌のお世話になることもよくある。大きな個体になればなるほど、餌付き難易度は上昇する。人工餌に見向きもしない場合は、活きたイサザアミを与えるのが最良。これを食べない場合は、残念ながら望みが薄い。入手の際は、なるべく入荷してから日の経たないうちがよい。というのも、この手のベラはショップのストックが長引くと、調子を崩してしまうことが多いためだ。ショップもノドグロベラに専用の水槽など用意できるはずもないので、このあたりは仕方の無いところ。欲しい人は、なるべく早めに購入することをおすすめする。いったん餌付き、落ち着いてしまえば比較的飼育しやすくなるが、無理な混泳をさせると駄目になりやすいので注意。また飛び出しも多く、フタは必須だ。長期にわたる飼育が意外と難しい魚で、アクアリストの水槽に対する工夫とサジ加減がものをいう。

種小名は『斑点を持った』という意味で、メスの模様に由来。英名もメスの模様から。和名の由来については、よく分からなかった。

Bodianus paraleucosticticus

2007年08月16日 10:49

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(photo/アキュリ)

学名:Bodianus paraleucosticticus Gomon, 2006
和名:なし
英名:不明
全長:15cm
ラロトンガ、パプアニューギニア、ニューカレドニアに分布

スジキツネベラ(Bodianus leucosticticus)によく似た種。体側のラインの色が違うことで区別できる。水深50~115mと、かなり深い場所に生息している。詳しい生態などはよくわかっていない。体長は15cmとしたが、近縁のスジキツネベラなどの体長を考えると、少なくとも20cmには成長すると思われる。

この手の Bodianus は、丈夫で何でも食べるので飼育しやすい。しかし、本種をはじめ深場のベラは突然減圧症が出たりすることもある。このあたり、見た目で判断できないのが難しいところ。性格はおそらくきつく、混泳させるのは少々難しいかもしれない。エビなどの甲殻類は好物なので、それらとは一緒にできない。

種小名の para は「似た、近似の」という意味で、スジキツネベラ(Bodianus leucosticticus)に似た種ということ。leucosticticus は「白い斑点」という意味で、体にある白点に由来。

エレガント・コリス

2007年05月14日 23:52

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成魚(photo/J.E.Randall)

学名:Coris venusta Vaillant & Sauvage, 1875
和名:なし
英名:エレガント・コリス Elegant coris
全長:約20cm
ハワイ諸島のみに分布

ハワイ諸島の固有種。最大でも20cmまでで、Coris属としては小型に類する。幼魚は成魚に比べると地味だが、あまり大きな模様の変化はない。エラブタ後方と、背ビレ後方基部にある黒斑は、幼魚から成魚まで共通して見られる特徴。ハワイでは普通種で、10m前後の水深でよくみられる。底性小動物、小型甲殻類を好んで捕食する。似た種にスジベラ Coris dorsomacula Fowler, 1908(西部太平洋) 、Coris caudimacula (Quoy & Gaimard, 1834)(インド洋)、Coris roseoviridis Randall, 1999(クック、ピトケアン)、Coris debueni Randall, 1999(イースター)の4種がいる。成魚は見分けができるが、小型個体はどれも似た感じで間違えやすい。

観賞用としては、ハワイ便でたまに入荷している。現地では普通種だが、入荷量は何故か少ない。飼育自体は容易で、何でも食べてくれる丈夫なベラだ。しかし、砂が無いと落ち着かないため、細か目の砂を敷いて潜れるようにしてやりたい。さほど大きくならず、協調性も良いのでヤッコなどとの混泳に向いている。ただ、余り小さな魚やカクレエビなどとは一緒にしないこと。餌になってしまう。驚くと水槽から飛び出すことがあるので注意。

種小名は「優雅な・魅力ある」という意味で、美しい体色に因んだもの。英名も美しい色彩が由来。

"フラッシング・コリス"

2007年05月14日 02:02

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オス(photo/J.E.Randall)

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メス(photo/J.E.Randall)

学名:Coris hewetti Randall, 1999
和名:なし
英名:不明
全長:約15cm
マルケサス諸島のみに分布

マルケサス・コリス同様、本種もマルケサス諸島の固有種。最大でも20cmに満たない種で、Coris属としては小型である。メスは至って地味だが、オスは背ビレと尻ビレが大きくなり、体色も美しくなる。大きなヒレを広げてメスに対してディスプレイし、瞬時に体色を変えることができる。まるでクジャクベラのような行動をみせるが、Coris属でこのようなディスプレイをする種は他にいない。かなり変わった種だといえるだろう。浅瀬から40mまでの幅広い水深でみられ、群れで生活する。

観賞魚としての入荷はまだないが、オスは非常に魅力的で、観賞魚としての資質を十分に備えている。水槽内でディスプレイを観察してみたいベラであるが、輸入される可能性は極めて低い。

種小名は人物名。英名は不明。「フラッシング・コリス」は、当ブログで便宜上付けた名称で、何ら正式なものではない。

マルケサス・コリス

2007年05月07日 15:16

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成魚(photo/J.E.Randall)

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未成魚(photo/J.E.Randall)

学名:Coris marquesensis Randall, 1999
和名:なし
英名:マルケサス・コリス Marquesas coris
全長:約30cm
マルケサス諸島のみに分布

マルケサス諸島の固有種。幼魚と成魚はツユベラによく似ていて、当初は同じ種だと考えられていた(発見は1971年)。しかし未成魚のカラーパターンは、ブルーのラインや背ビレ後方に黒斑が入り、ツユベラとは大きく異なる。そのため、後になってランドール博士により新種記載された。生息水深は背の立つような浅場から、水深30mまでと幅広い。警戒心が強いようで、なかなか接近できないベラだそうである。

アクアリウム用に輸入されたことは、まだ無い。マルケサス諸島には本種以外にも固有種が多く、観賞用として魅力的な魚がたくさんいる。だが、採集業者が全く居ないため、それらの魚たちが輸入されてくる可能性は極めて低い。数少ない写真を見て楽しむ以外に方法はなさそうだ。

種小名は生息地であるマルケサス諸島から。英名も同じ。